日常で使う「リスク」
普段、我々は「リスク」という言葉を「悪いことが起きる確率」という意味で用いる。
まずはこれを認識してほしい。
例えば「この手術には失敗のリスクがある」という使い方はするが、「この手術で治るリスクがある」とは言わない。
手術失敗は悪いことだが、治るのは悪いことではないからだ。
通常、「リスク」は悪いことにしか使わないのである。
さらに、「このままだと患者が明日死ぬリスクがある」という使い方はするが、「この死体はわずか数時間前に死んでいたリスクがある」とは言わない。
死んでいた、という過去にことに対してリスクという言葉は使わないからだ。
通常、「リスク」はまだ不確定な中で「悪いことが起きる確率」なので、未来のことにしか使わないのである。
「リスク」について誰も書かないこと
金融の話において「リスク」は、通常使う「リスク」とは全く違う意味で使われる。
同音意義語として、知らなかった単語として、新しく覚えるべきだ。
金融系の知識を解説したサイトで、リスクについて触れていないものはないが、誰もこのことを書いていない。
金融系の解説をしようとする人ですら、イマイチ頭が整理できていないのだろう。
だが日本人にこの認識がない弊害は大きい。
これが分かっている正しい人が、わかっていない知識不足に何かを説明しようとして徒労に終わる不幸な会話を何回も見てきた。
A「カキは海で採れる」
B「は?山だろ」
A「?」
という会話を見ると誰もが「あぁ柿と牡蠣を勘違いしてんだろうな」とわかるだろうが、
A「低金利の今、利子だけに頼るのはむしろリスクが高い。株式投資をしよう」
B「いや、利子のリスクは株より圧倒的に小さいでしょ」
A「は?」
というような会話はそこかしこで行われており、しかもどうして会話がかみ合わないのかわからない人が多い。
(ちなみにAはリスクを「通常の意味」で使っており、Bは「金融の意味」で使っている)
当然である。使っている単語の意味が違うのだから。
こういうと言語学者は反論するかもしれない。
「リスクという単語の語源は〇〇で、どちらの意味もそこから派生しているので同音意義とは言わない」などとのたまうかもしれない。
しかし学問的な正しさなど知ったこっちゃない。
金融の「リスク」と通常の「リスク」は違う単語。
こう認識した方が、絶対理解しやすい。
金融における「リスク」
というわけで皆様には新しい単語「リスク」を覚えていただきたい。
金融において「リスク」は、「標準偏差=ばらつきを表す指標」という意味で使われる。
「ここ20年の米国株の平均リターンは7%、リスクは20%だ」のように使う。
標準偏差には
平均±標準偏差に収まる確率は68%
平均±2*標準偏差に収まる確率は95%
平均±3*標準偏差に収まる確率は99.7%
という性質があるので、上記は
「ここ20年の米国株のリターンは
68%は-13%~+27%に収まっており、
95%は-33%~+47%に収まっており、
99%は-53%~+67%に収まっている
程度のばらつきである」
というような意味になる。
そこに「悪いこと」という意味は全くない。
そもそもいいとか悪いとか、主観が入るような余地のない言葉である。
そこに「(未来の)確率」という意味は全くない。
むしろ過去の状態を表す言葉である。
ここまで意味が違うので、別の単語として覚えるべきだと言っているのだ。
リスクの求め方
指標なので当然、計算で求められる。
平均リターン求め方は大変単純で、
①全部足して
②足した個数で割る
とうものであった(小学生レベル)。
幾何平均リターンの求め方もそれほど難しくはなく、
①全部掛けて
②「1/掛けた個数」乗する
というものであった(中学生レベル)。
リスクの求め方もそれほど難しくはなく、
「平均との差」の平均
というものである(小学生レベル)。
例えば投資対象Aのリターンが
1年目:40%
2年目:ー30%
3年目:40%
4年目:ー30%
だった場合、この商品Aの4年間の平均リターンは
(40-30+30-40)/4=5%
となったが、幾何平均リターンは
(1.4*0.7*1.4*0.7)^(1/4)=-1%
となる。
そしてリスクを求めるにはまず平均リターン5%との差の大きさをそれぞれ
1年目:35%
2年目:35%
3年目:35%
4年目:35%
と求め、その平均
(35%+35%+35%+35%)/4=35%
と計算できる。
「リスク」を正しく使っているかでその人の知識レベルがわかる
金融系のサイトを読んでいても、リスクを間違った(=通常の意味で)使い方をしている例が散見される。
「投資には値下がりリスクがあるので注意しましょう」
などがその最たるもの。
「投資には【値下がりという悪いことがおきる確率】があるので注意しましょう」
という、金融の話なのに通常の意味でリスクという単語を使ってしまっている。
こういった人の情報は一切の価値がないと思った方がいい。
碌に勉強をしていない証拠である。
金融系のサイトで「リスク」という大事な単語を正しく使う程度の知能がない人の情報を読むのは、百害あって一利ない。
まとめ
くどいようだが金融の「リスク」は新しく覚えるべき新単語だ。
皆様も「リスク」という単語を見かけたとき、どちらの意味で使っているかを一々確認しながら読んでいただきたい。
なお、このブログで出てくる「リスク」は特記ない限り「金融の意味」で用いている。
さて、リスクについてかなり詳しく解説した。
これで「平均リターン」「リスク」という、投資商品の性質を一番よく表せる2指標が揃った。
次ページ以降、これらをどう使うかについて解説する。